校長室からお届けします

にっこり 校長室だより「自立の丘」№37 令和6年7月8日発行

◆ 夏休みは “ 小さな科学者 ” に
 あと2週間で夏休みがやってきます。夏休みは期間が長いので,学習が遅れている子には挽回するチャンスですが,ドリル学習(繰り返しの学習)等で身に付く,目に見える「学力」の向上は期待できません。そこで夏休みの「提出を義務づける学習」の宿題は減らし,「理科自由研究」を推奨します。最近重視されている,子どもの非認知能力(テストでは分からない「やる気」「自信」「粘り強さ」「気づく力」など)の向上を願ってのことです。家族のアドバイスや手助けは増えると思いますが,有意義な夏休みのため,ご協力よろしくお願いします。

 私は,夏休みが近づいてくると決まって,多くの小学生が理科の自由研究にチャレンジしてくれたら,うれしいなあと思います。それは,小学生の理科自由研究について,こんな話を聞いたことがあるからです。

 今から14年前の2010年(平成22年)のことです。千葉県のある小学4年生の男の子が夏休みの理科自由研究をやっていました。研究テーマは「アリジゴクの研究」です。アリジゴクとはウスバカゲロウという空を飛ぶ昆虫の幼虫で,成虫に成るまでは,土の中にいて落とし穴のような巣を作り,うっかり落ちてくるアリを食べて生きています。その穴が,食べられてしまうアリにとっては,まるで地獄のようなので,幼虫はアリジゴクと呼ばれています。乾いた砂を入れた入れ物に捕まえてきたアリジゴクを入れて,1週間に1匹,アリを入れて食べさせれば,簡単に飼うことが出来るので,理科自由研究では昔から多くの小学生がテーマとして選んでいました。

 男の子が,ある日,飼っているアリジゴクの体の写真をアップで撮ろうと白い紙の上に置きました。しばらくすると,紙に少しだけ黄色い液体が付いていることに気が付きました。「まさか,おしっこなのかな?」10年前の昆虫図鑑には「アリジゴクは糞や尿(おしっこ)をしません。お尻の穴も塞がっています。」と書いてあったので驚いたのです。男の子は確かめようと,10匹のアリジゴクを白い紙の上に置きました。そして3時間後には,そのうち4匹のお尻のところに黄色い液体が付いていたそうです。男の子は,「アリジゴクは糞をしないけれど尿(おしっこ)はする」という研究をまとめました。

 世の中の人が皆思っていた常識と違うことだったので,新聞にも載り,テレビでも放送されました。それまでアリジゴクを研究した何人もの全国の小学生誰もが,気づかなかったことです。もしかすると気づいても「図鑑に書いてあるから,おしっこじゃないな」と思ってしまったのかも知れません。その後,黄色い液体はアリジゴクの尿(おしっこ)であることが科学者の研究によってはっきりしました。一人の小学生の自由研究が科学の常識を変えたと言っても良いのかも知れません。4年生の男の子が「小さな科学者」になったとも言えます。

 当たり前だと言われていることや不思議だと思ったことを実際にやって確かめてみる事が出来る学習。それが夏休みの理科自由研究なのです。自分で考えて自分で研究を進めていくので,どんどん考える力を付けることが出来ます。おまけにステキな発見が付いてくるかも知れません。自由研究が夏休みの一番の思い出になることもあります。先生方やお家の方と相談したり,科学に関する本を読んだりして,今のうちに計画を立ててください。担任の先生から理科自由研究の手引きを頂けます。ぜひ,今年の夏休みは,みんなが小さな科学者になるチャンスを生かすため,多くの子が自由研究に取り組んでほしいと思います。