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にっこり 校長室だより「自立の丘」№20 令和5年11月15日発行

◆ 七五三の祝いに“家族”を想う
 最近,ある神社を訪れる機会がありました。秋晴れの素晴らしい日であった上に日柄も良かったのか,多くの七五三参りの家族連れを見かけました。その時,最近聞いたこんな話を思い出しました。

 アメリカ合衆国の,ある病院にナンシーという3歳の女の子が入院してきました。身長と体重は1歳児の標準体型ほど。全身が干(ひ)からびたような痛々しい姿で,言葉を話すことも出来ませんでした。そして身体の機能的な問題を抱えていないのに,入院から3ヶ月を過ぎても全く成長が見られなかったのです。
 実はナンシーの入院以来,両親は一度も面会に来ていませんでした。病院からの呼び出しにも応じる気配はありません。何とか親に会わなければと考えた医師は,自宅を訪ねることにしました。
 ナンシーの両親は,エリートコースの中でも最高といわれるハーバード大学の経営大学院に在籍しており,二人とも論文の執筆に追われる毎日を送っていました。医師が自宅を訪ねた際も,居間に通されたかと思ったら,執筆が一(いち)段(だん)落(らく)するまで待たされるという有(あり)様(さま)でした。
 医師が待ちきれなくなった頃,ようやく書斎から出て来た母親は,こんな事を言いました。
「この論文が通れば,世界中のどこでもエリートとして受け入れられます。だから論文が通った後で子供をつくりたかったのです。ナンシーは間違って生まれてきてしまった……。今は面倒を見る暇がないので,もうちょっと預かっていて下さい。」
 医師は黙ってその家を後にしました。
 病院に戻った医師は,陽当たりが良く,人の行き交う廊下にナンシーをベッドごと移動させると,頭上にこんな貼り紙をしました。

― 私はナンシーです。
 あなたがここを通るとき,もしあなたが急いでいるならば「ナンシー」と呼んでほほ笑みかけて下さい。 もしあなたに少しの時間があるならば,立ち止まって「ナンシー」と呼びかけ,私を抱き上げ,あやして下さい。 もしあなたに充分なゆとりがあるならば「ナンシー」と呼んで私を抱き上げ,ほおずりをして,あなたの胸と腕の温かさを私に伝えて下さい。そして私と会話をして下さい。―

 この貼り紙を見た医師や看護師は,皆が足を止めて,ほほ笑みながらナンシーの名前を呼び,抱いたりあやしたりするようになりました。
 こうして1週間が過ぎた頃,ナンシーはほほ笑むようになりました。そして,3ヶ月が経つ頃には,正常な3歳児の体重に近づき,言葉も急速に覚え始めたのです。

 七五三祝いの年令まで健やかに成長するには,食べ物の栄養だけでなく,愛情という心の栄養も必要なのだろうと思います。子どもたちが今の姿まで成長しているのは,間違いなく周囲の大人の温かい愛情を充分に注がれてきたからなのだろうと感じた秋晴れの一日でした。