校長室からお届けします

にっこり 校長室だより「自立の丘」№6 令和5年5月23日発行

◆ 銀河鉄道の父
 役所広司さんが宮沢賢治の父親役を演じる映画『銀河鉄道の父』が話題です。当然,宮沢賢治の生涯も描かれるのですが,父親が主人公なので父親の視点で描かれた家族の物語でした。一番の理解者であり,彼女に読み聞かせようと童話を創作していたと言っても過言ではない二歳下の妹トシが亡くなってしまった後,賢治は創作意欲を失います。特に印象的だったのが,そんな賢治に父親が「わだしが一番の読者になるから書げ」と話しかけるシーンです。「親だけは最後まで子どもの応援者である」とはっきり分かった時の子どものうれしさに思いを馳せました。世間に認められなくても,多くの傑作を書き続けられた秘密の一端が分かったような気がしました。

◆ 宮沢賢治の考え方に学ぶ
 宮沢賢治は自身の死後,ようやく世間に認められて多くの童話が出版された作家ですが,全て人としての生き方への示唆に富んだ作品ばかりです。私が好きな童話としては,虔十(けんじゅう)という若者の植えた700本の杉苗が,自身の死後20年を経て,暑い日に子ども達の涼しい木陰の遊び場所になり,そこに若者の名前が付けられる『虔十公園林』。また,冷害による孤児であった若者が犠牲となって火山を爆発により噴火させ,気候を変えて東北地方の冷害を防ぐ『グスコーブドリの伝記』等があります。いずれも「個人が社会全体のためになる生き方をする」という賢治の思いを感じさせます。
 賢治は著作の中で『世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない』と述べています。実は昨年から9年間の福島県教育施策の最上位目標が『個人と社会の well-being(幸福)の実現』となっています。県内全ての公立小中高校は,それに向かって学校改革を進めているのです。21世紀の学校教育の目標が20世紀初頭に賢治によって語られていたことに感服します。子どもたちにも『自分も友達も社会も幸せになる」という考え方を育みたいと思います。